訪問看護でできること・できないことを完全解説!サービス範囲と利用のポイント
家族の在宅療養を検討している中で、「訪問看護ってどこまで対応してくれるの?」「家事もお願いできるの?」と疑問に思ったことはありませんか。訪問看護サービスには明確な「できること」と「できないこと」があり、これを正しく理解しておくことで、適切なサービス選択と効果的な活用が可能になります。
サービス範囲を正確に把握せずに利用を開始すると、「期待していたケアが受けられなかった」「他のサービスとの組み合わせ方が分からない」といった問題が生じる可能性があります。また、訪問看護でできないことを他のサービスでカバーする方法を知らないと、在宅療養に支障をきたすこともあります。
本記事では、訪問看護で提供可能な医療処置・日常生活ケアから、サービス範囲の制限、訪問介護との使い分け、自費サービスの活用方法まで、利用者・家族が知っておくべき情報を分かりやすく解説いたします。
訪問看護でできること:医療処置から日常ケアまで
医療処置・医療的ケア
訪問看護では、医師の指示に基づいて、自宅でも病院と同様の高度な医療処置を受けることができます。これにより、医療依存度の高い方でも在宅での生活が継続可能になります。
具体的には、点滴・注射の管理、中心静脈栄養の管理、人工呼吸器の管理、在宅酸素療法の管理などの高度な医療機器を使用したケアが提供できます。また、創傷及び褥瘡処置、人工肛門・人工膀胱の管理、経鼻チューブ・胃瘻チューブの管理、尿道留置カテーテルの管理、喀痰の吸引なども対応可能です。
血糖測定やインスリン注射、バイタルサイン測定(血圧、体温、脈拍、酸素飽和度、呼吸状態、意識レベル)なども日常的に実施され、利用者の健康状態を継続的にモニタリングします。これらの医療処置に必要な物品や機器は、基本的に指示を出した医療機関が準備するか、訪問看護ステーションが手配します。
訪問看護師は単に医療処置を実施するだけでなく、利用者や家族に対して疾患の説明や医療処置を受けながらの日常生活のアドバイスも行い、安全で快適な在宅療養をサポートします。
日常生活のケア・清潔保持
訪問看護では、医療処置だけでなく、利用者の健康維持と快適な生活を支える日常生活のケアも幅広く提供しています。これらのケアは、感染症予防や合併症防止、QOL向上を目的として実施されます。
清潔ケアとしては、入浴介助、部分浴、清拭、洗髪、手浴、足浴、口腔ケアなどが挙げられます。皮膚の状態観察や褥瘡(床ずれ)の予防を目的とした入浴や清拭は、医療的視点からの健康管理として重要な役割を果たします。特に口腔ケアでは、嚥下機能の評価や誤嚥性肺炎の予防を目的とした専門的なアプローチを行います。
排泄ケアも訪問看護の重要な領域です。膀胱留置カテーテルの管理、人工肛門(ストーマ)のケア、摘便、オムツ交換、陰部洗浄などを医療的観点から実施し、感染管理や皮膚トラブルの予防に努めます。利用者だけでなく、家族に対する排泄ケアの指導も行い、24時間体制での適切なケア継続をサポートします。
薬の管理も重要な日常ケアの一つです。処方された薬の効果・副作用の説明、服薬カレンダーやピルケースを活用した服薬忘れの防止、利用者の理解度や生活に合わせた服薬管理方法の指導を行います。また、薬の効果や副作用を観察し、医師への報告・連携も担います。
専門的な支援・リハビリテーション
訪問看護ステーションには、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの専門スタッフが在籍しており、利用者の状況に応じた専門的なリハビリテーションや支援を提供できます。これらのサービスは医師の指示に基づいて実施されます。
リハビリテーションサービスの大きな特徴は、利用者が安心できる自宅環境で、実際の生活に即した内容をサポートできる点です。歩行訓練では、自宅の間取りや段差を考慮した安全な移動方法を指導し、関節のストレッチでは日常生活動作に必要な関節可動域の維持・改善を図ります。筋力トレーニングも、その方の生活スタイルに合わせた実践的な内容で実施します。
言語聴覚士による嚥下訓練・評価も重要なサービスです。食事の際の誤嚥リスクを軽減するため、嚥下体操や口腔マッサージを通じて嚥下機能の改善を図り、安全な食事摂取をサポートします。認知症や失語症の方に対するコミュニケーション支援も行います。
また、訪問看護では療養生活全般に関する相談支援も重要な役割です。疾患管理に関するアドバイス、介護方法の指導、社会資源(他のサービスや制度)の活用支援、多職種(医師、ケアマネジャー、他のサービス提供者)との連携調整など、包括的なサポートを提供しています。
緩和ケア・終末期ケア
「住み慣れた自宅で最期まで暮らしたい」という希望を持つ方は少なくありません。訪問看護では、終末期を迎える利用者とその家族に対する緩和ケアも重要なサービスとして提供しています。
緩和ケアの中心は症状管理です。がん性疼痛をはじめとする身体的な苦痛を和らげるための薬物療法の管理、呼吸困難や嘔気・嘔吐などの症状に対する適切なケア、床ずれや感染症などの合併症予防を通じて、利用者の身体的負担を最小限に抑えます。在宅で使用できる麻薬系の痛み止めには制限がありますが、可能な範囲での疼痛コントロールを行います。
心理的・精神的サポートも緩和ケアの重要な要素です。利用者の不安や恐怖に寄り添い、精神的な支えとなることで、その人らしい最期を迎えられるよう支援します。また、家族の精神的負担にも配慮し、介護の方法や心構えについてアドバイスを行います。
人生会議(アドバンス・ケア・プランニング)の支援も行います。元気なうちから本人の希望を聞き、人生において大切にしたいこと、最期のときをどのように迎えたいかなどを確認し、それらの要望を可能な限り実現できるよう多職種と連携してケアを調整します。看取りの場面では、24時間体制での対応により、家族が安心して最期の時間を過ごせるようサポートします。
訪問看護でできないこと:サービス範囲の制限
場所の制約:自宅以外でのサービス提供
訪問看護は「在宅」での療養生活を支援するサービスとして制度設計されているため、基本的に利用者の自宅以外の場所(外出先、レストラン、旅行先、入所施設など)でのサービス提供はできません。これは訪問看護の根本的な制約の一つです。
この制約の背景には、訪問看護が利用者の日常生活環境に合わせたケアを提供し、住み慣れた環境での健康状態の維持・改善を目的としているという理念があります。外出先でのケア提供は、保険制度の枠組み上、原則として対象外となります。
ただし、例外的なケースとして、一部の訪問看護ステーションでは保険適用外の自費サービスとして、通院の付き添い支援、外出時の看護ケア、旅行同行サービス、一時的な宿泊先でのケアなどを提供している場合があります。これらは全額自己負担となるため、料金や提供可否については事前に訪問看護ステーションに確認が必要です。
自宅以外での看護ケアが必要な場合は、通院同行のためのヘルパーサービス(介護保険の訪問介護)、移動支援サービス(障害福祉サービス)、通院等乗降介助(介護タクシー)、短期入所サービス(ショートステイ)などの代替手段を検討することが大切です。
家事代行・身の回りの世話
訪問看護と訪問介護はしばしば混同されがちですが、訪問看護は医療的ケアを中心としたサービスであり、日常的な家事代行や身の回りの世話は基本的に対象外となります。この区別を理解することは、適切なサービス選択のために重要です。
訪問看護でできない家事・生活支援には、掃除、調理、買い物、洗濯、ゴミ出し、衣類の整理、部屋の片付けなどがあります。これらは「療養上の世話」ではなく、一般的な生活支援に分類されるためです。訪問看護師の職務はあくまで「看護」であり、身体的・精神的な健康管理が中心となります。
ただし、境界線があいまいなケアもあります。例えば食事について、訪問看護師は栄養指導、嚥下機能の評価、食事摂取状況の観察、経管栄養の管理などは行えますが、買い物に行って食材を購入したり、調理を行ったりすることはできません。同様に、清潔保持の観点から療養に直接関わる範囲の環境整備は行えますが、一般的な掃除は対象外です。
一人暮らしの利用者や家事を自力でできない場合は、ケアマネジャーと相談し、ヘルパーサービス(訪問介護)の導入、デイサービスの利用、宅配弁当サービス、家事代行サービス(介護保険外)などの活用を検討することが重要です。訪問看護と訪問介護を適切に組み合わせることで、医療と生活の両面から包括的なサポートを受けることができます。
医療行為の限界
訪問看護では幅広い医療処置が可能ですが、すべての医療行為に対応できるわけではありません。医師の専門的判断が必要な行為や、医療機関での対応が必要な高度な処置には限界があります。
訪問看護師が独自に判断・実施できない医療行為として、処方薬の変更や新たな治療方針の決定があります。薬の種類や量の変更、新たな薬の処方、検査の指示などは医師の専権事項であり、訪問看護師が行うことはできません。これらが必要な場合は、医師への報告・相談を通じて適切な指示を仰ぐ必要があります。
また、高度な外科的処置や緊急性の高い医療行為も訪問看護では対応困難です。外科手術、緊急時の蘇生処置、高度な検査や診断、集中的な治療が必要な急性期の病状管理などは、医療機関での対応が必要となります。このような状況では、訪問看護師は速やかに医療機関への受診を促し、必要に応じて救急搬送の手配を行います。
在宅で使用できる医療機器や薬剤にも制限があります。特に麻薬系の痛み止めは在宅では制限があるため、完全な疼痛コントロールが困難な場合があり、最終的には医療機関での対応が必要になることもあります。訪問看護師は、利用者の状態を適切に評価し、在宅でのケア継続が困難と判断した場合は、医師と連携して最適な医療提供体制を検討します。
訪問看護と他サービスとの使い分け
訪問介護との違いと連携
訪問看護と訪問介護は、どちらも在宅で生活する利用者を支えるサービスですが、「医療行為を行えるかどうか」という点で明確に区別されます。この違いを理解し、適切に連携することで、より包括的なケアを受けることができます。
訪問看護は、医療保険または介護保険で利用できるサービスで、カテーテル管理、点滴、褥瘡処置、人工呼吸器の管理などの医療行為が可能です。乳幼児から高齢者まで、介護認定の有無に関係なく、医師が必要と認めた方であれば誰でも利用できます。一方、訪問介護は介護保険内のサービスで、基本的には要支援・要介護認定を受けた方が対象となり、医療行為は行えません。
サービス内容の違いも重要です。訪問看護では健康管理、医療処置、療養指導が中心となりますが、訪問介護では身体介護(入浴・排泄・食事の介助)、生活援助(掃除・洗濯・買い物・調理)、通院等乗降介助などが主なサービスです。ただし、入浴介助や排泄介助など、両方のサービスで提供可能なケアもあります。この場合、訪問看護では医療的な観察や評価を伴う形で実施されることが多いです。
効果的な在宅療養のためには、これらのサービスを適切に組み合わせることが重要です。例えば、訪問看護師が医療処置や健康管理を担当し、ヘルパーが食事の準備や掃除などの日常生活支援を担当するといった役割分担が一般的です。ケアマネジャーがこれらのサービス調整を行い、利用者のニーズに応じて最適な組み合わせを提案します。
通院支援・外出時のサポート
通院支援は在宅療養を継続する上で重要な要素ですが、訪問看護では通院の付き添いはできないため、他のサービスや手段を活用する必要があります。これらの選択肢を理解しておくことで、安心して在宅療養を続けることができます。
通院支援の主な選択肢として、家族や友人による付き添い、ヘルパーによる通院介助(訪問介護サービス)、介護タクシーによる通院等乗降介助、移動支援サービス(障害福祉サービス)などがあります。これらはそれぞれ利用条件や費用が異なるため、利用者の状況に応じて最適なものを選択することが大切です。
ヘルパーによる通院介助では、自宅から医療機関までの移動支援、受診手続きの代行、診察の付き添い、薬局での薬の受け取りなどが可能です。ただし、利用者の要介護度や通院頻度によって利用制限がある場合もあります。介護タクシーでは、車椅子やストレッチャーでの移送が可能で、必要に応じて看護師や介護福祉士が同行することもできます。
外出時の医療的ケアが必要な場合は、一部の訪問看護ステーションで保険適用外の自費サービスとして、通院同行や外出時の看護ケアを提供していることがあります。「家族での思い出の旅行に参加したい」「孫の結婚式に出席したい」といった特別な状況では、このようなサービスの利用を検討することもできます。ただし、全額自己負担となるため、事前に費用や条件を確認することが重要です。
自費サービスでできること
介護保険や医療保険では対応できないニーズに対して、自費サービスという選択肢があります。自費サービスは利用者とサービス提供者が直接契約し、保険制度の制約を受けないため、より柔軟なサービス提供が可能です。
自費の訪問看護サービスでは、保険適用では制限される様々なケアが提供できます。例えば、外出先や旅行先での看護ケア、通院の付き添い、保険適用の訪問回数や時間を超えた追加的なケア、家族が不在時の見守りサービス、保険適用外の医療処置などです。また、要支援・要介護認定の有無、疾病の種類、年齢に関係なく、すべての方が利用できる点も特徴です。
特に自費サービスが活用される場面として、大切な家族行事への参加(結婚式、法事、記念日など)、一時的な家族旅行や帰省、保険適用では不十分な頻度でのケア、夜間や早朝の特別な対応、家族の介護負担軽減のための追加サポートなどがあります。これらは保険制度では対応困難ですが、自費サービスなら実現可能です。
自費サービスを利用する際の注意点として、全額自己負担となるため費用が高額になること、サービス提供事業所によって内容や料金が大きく異なること、医師の訪問看護指示書が必要な場合があることなどが挙げられます。利用を検討する場合は、複数の事業所で料金やサービス内容を比較し、利用者・家族のライフスタイルや経済状況に応じて慎重に選択することが重要です。自費サービスは保険適用の訪問看護と併用することも可能で、より充実したケア体制を構築できます。
訪問看護を効果的に活用するためのポイント
サービス利用前の準備と相談
訪問看護を効果的に活用するためには、サービス利用前の十分な準備と相談が重要です。適切な準備により、利用者のニーズに最も適したサービスを受けることができます。
まず、利用者と家族のニーズを明確にすることから始めましょう。現在困っていること、訪問看護に期待すること、日常生活で支援が必要な部分、医療的ケアの必要性、家族の介護負担などを具体的にリストアップします。また、利用者の病歴、現在の治療内容、服薬状況、身体機能の状況なども整理しておくと、適切なケアプランの作成に役立ちます。
相談先としては、まず主治医に訪問看護の必要性について相談することが基本です。医師が訪問看護指示書を発行することで、サービス利用が可能になります。また、地域包括支援センター、ケアマネジャー、訪問看護ステーション、医療機関の地域連携室なども相談窓口として活用できます。
事前に確認しておくべき事項として、サービス提供可能な時間帯、緊急時の対応体制、利用料金と支払い方法、スタッフの資格と経験、提供可能な医療処置の範囲、他のサービスとの連携方法などがあります。複数の訪問看護ステーションから情報収集を行い、利用者に最適な事業所を選択することが大切です。
医師・ケアマネジャーとの連携
訪問看護を効果的に活用するためには、医師やケアマネジャーとの密接な連携が不可欠です。これらの専門職との良好な関係を築くことで、より質の高い在宅療養が実現できます。
医師との連携では、定期的な病状報告と指示の確認が重要です。訪問看護師は利用者の健康状態の変化、薬の効果や副作用、新たに生じた問題などを医師に詳細に報告します。利用者・家族も、気になる症状や変化があれば積極的に訪問看護師に伝え、それが医師に適切に伝達されるようにすることが大切です。
ケアマネジャーとの連携では、ケアプラン全体の中での訪問看護の位置づけを明確にし、他のサービスとの調整を図ります。利用者の状態変化に応じてサービス内容や頻度を調整する際も、ケアマネジャーが中心となって多職種での検討を行います。定期的なケア会議への参加により、関係者全体で情報共有と方針確認を行うことが重要です。
家族も積極的にこれらの連携に参画することで、より良いケア体制を構築できます。疑問や要望があれば遠慮なく相談し、治療方針や今後の見通しについて十分な説明を受けることで、安心して在宅療養を継続できます。
家族の理解と協力体制づくり
訪問看護を成功させるためには、家族全体の理解と協力が欠かせません。家族が一体となってサポート体制を築くことで、利用者がより安心して在宅療養を送ることができます。
まず、家族全員が訪問看護の役割と限界について正しく理解することが重要です。訪問看護でできること・できないこと、他のサービスとの使い分け、緊急時の対応方法などについて、訪問看護師から詳しい説明を受けましょう。家族間での認識の違いを避けるため、できるだけ多くの家族が説明の場に参加することが望ましいです。
日常的な役割分担も明確にしておきましょう。主介護者だけに負担が集中しないよう、服薬管理、通院付き添い、見守り、緊急時の連絡など、それぞれの家族ができる範囲で役割を分担します。遠方に住む家族も、定期的な安否確認や主介護者への精神的サポートなど、可能な形で協力することが大切です。
訪問看護師との信頼関係構築も重要なポイントです。利用者の日常的な様子、好みや習慣、気になる変化などを積極的に情報提供し、より個別性の高いケアを受けられるよう協力します。また、ケアの実施状況について定期的にフィードバックを求め、必要に応じてケア内容の調整を相談することで、継続的な改善を図ることができます。
まとめ
訪問看護は、医療処置から日常生活のケアまで幅広いサービスを在宅で提供できる重要なサービスです。点滴管理、褥瘡ケア、バイタルサイン測定などの医療的ケアから、清拭や排泄ケアなどの日常生活支援まで、利用者の状態に応じて柔軟に対応できます。
一方で、家事代行、自宅以外でのサービス提供、高度な外科的処置などは対象外となるため、訪問介護や他のサービスとの適切な組み合わせが重要です。また、自費サービスを活用することで、保険適用外のニーズにも対応できる場合があります。
訪問看護を効果的に活用するためには、利用者と家族のニーズを明確にし、医師やケアマネジャーと連携して最適なケアプランを作成することが大切です。適切なサービス選択により、住み慣れた自宅で安心・安全な療養生活を送ることができるでしょう。

